池川佳宏の記録帳

マンガ業界のはじっこで、あまり他の人がやっていない仕事をしていた池川佳宏の記録です。

11年執筆した『マンガ論争』年末企画の「○○年のマンガ 復刊マンガ編」の連載を終了しました

即売会で発売されるミニコミ『マンガ論争』の年末発売号に2010年から掲載していた「○○年のマンガ 復刊マンガ編」を連載終了しました。通常号『マンガ論争』22号(2019年12月発行)、次の『マンガ論争増刊 2020年のマンガ』(2021年4月発行)で最終回とさせていただきました。

いずれもすで完売していますが、Kindle版は購入できます。

manronweb.com

最終回とした理由について、執筆記事から下記転載します。

---

■「復刊」の言葉が消える?
 2010年の年末号(4号)から毎年掲載しているこの「復刊」レビューを今回で最終回とさせていただくことにした。この11年の総括を本稿としたい。
 本レビュー開始の背景には、2009年の手塚治虫新宝島』(原作 酒井七馬 小学館クリエイティブ)、『藤子・F・不二雄大全集』(全115巻 小学館)のころから大御所の大型復刊企画が登場したことが大きい。当時は並行して復刊ドットコムコミックパークマンガショップなど細かなタイトルの復刊を行うレーベルもあり、数年は復刊の飽和状態が続いていた。
 しかし2010年代後半には大ネタのタイトルは出尽くし、かわりに電子書籍による過去作品のアーカイブ化が進んだ。この中で刊行を終了するレーベルもあり、大型復刊に力を入れていた小学館クリエイティブも規模を縮小していく。
 老舗の復刊ドットコムはリクエスト投票からの復刊システムを辞め、確実に売れる手塚治虫の「雑誌初出版」を軸に他作品も売るモデルに移行。同様に手塚作品を手掛かりとして、少女系に強い立東舎やイラスト集に強い玄光社が新規参入している。
 分厚いA5判で1万セット以上を販売した前述の藤子F全集の影響か、講談社は同様のスタイルで水木しげるつげ義春の全集をリリースした。先日予告された大友克洋全集には新機軸を期待したい。
 過去作が幅広く電子書籍化される中、「マンガ図書館Z」のような広告モデル配信や、国会図書館や美術館によるデジタル公開(閲覧)サービスも進化した。一方で権利的に難しい、内容表現的に難しいとされていた作品も関係者の尽力で大半が復刊に至り、元原稿・元本がなく「物理的に」難しいとされる復刊も、スキャナや画像処理の技術が進んで解決するケースも多い。総評して現状は「読めない作品はほぼない」状況になっている。
 その中で、今後「読めない本を読めるようにする」という「復刊」の言葉の持つ意味はより薄らいでゆき、今後は出版業界全体としてクラウドファンディングを含めた「高価格帯本によるイベント化」と、商業・非商業含めた「電子媒体によるアーカイブ化」の二極化していくと思われる。現在に至る流れをこの連載で記録できたことが筆者にとって大きな喜びである。

---

『マンガ論争』への執筆には、僕が中学生時代に読んでいた『COMIC BOX』掲載の分野別レビューの存在が大きく、こういう仕事をしたいと思っていたのでした。気軽に書けた媒体でしたが、執筆にとても準備が要る原稿にもかかわらず次第に復刊情報をトピック化しにくくなったこともあって終了とさせていただきました。とてもよい経験をさせていただき、ありがとうございました。また別の記事でご協力できればと思います。